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私はこの男を全く知らない。だから私は何も見なかったことにして玄関を去ることにした。普通に考えて怪しすぎるし。
警察を呼んでも良かったのだけれど、もしあの男がどこかの家と間違えていたとすればそれはそれで悪い気もする。
それに世間体というのもある。私の事情を知っている近所の人たちに警察沙汰が知れたら、きっと何か施しを受けるに違いない。私にはそんな優しさなど不要なのである。
こんな時間だし、ここまで反応しなければきっと向こうも帰ってくれるはず。そう思い玄関に背を向けたときであった。
「北条さーん、いませんかー?」
少し強くドアを叩く音が響くと同時に聞こえてきた声。柄にもなく私の心臓は跳び跳ねそうなほどに大きく反応した。
北条とは私の名字である。ここら一体でその名前は私の家だけなので、必然的にあの男が家を間違えているという可能性は消滅したことになる。
繰り返すが私はあんな男を知らない。あんな厳ついのと知り合いになった覚えがない。というか知り合いたくもない。
焦る気持ちを必死に抑えつつ、私は居留守を極め込んだ。例えどんな相手だろうとドアさえ開けなければ侵入など出来ないのだから。
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