3人が本棚に入れています
本棚に追加
/23ページ
――――ざわりとした風が一陣吹いて眼を眇た。
空気がねっとりとしている。
「………暑い」
口に出せば尚更暑さが増した気がして尻尾が垂れた。
東の皇国とは湿度が違うのだろう。
道の周りに植えられた木々は瑞々しく若々しい。
風が甘い薫りを運んでくる。
木々の隙間に隠れるように紅の花が綻んでいた。
強い陽の光彩に眼を眇て上を見上げれば、木々より高い鉄筋コンクリートビルが見下ろしてくる。
「………風情がないですね」
そっと嘆息して呟く。
暑くて尻尾も耳も垂れる。
なんというか。
衣装すら脱ぎ捨てたい心持ちになってふらふらと歩く。
「………ダメ、だ暑い………無理」
くらくらと目眩がしてきて建ち並ぶコンクリートビルの影に倒れ込む。
「おっと」
ふいに人の気配を感じて無くなりそうな意識を何とか保って眼を開ける。
きらきらと陽の光彩を弾く金色が眼に映った。
「ねぇ!君、大丈夫?ねぇ!」
答える気力も失して意識を闇に沈めた。
「……どうしよう……この狐さん」
腕の中でくったりしているのは狐のセリアンだった。
この国の暑さに参ってしまったのだろう。
真っ白な尻尾と靡く白銀の髪。
その頭頂部から覗く白い耳もくったりと垂れている。
最初のコメントを投稿しよう!