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「マズイな……急がなきゃ 涼しいとこと水を」
くったりとしたセリアンの様子に事態の深刻さを認識して舌打ちした。
よっと勢いをつけて米俵宜しく担ぎ上げて走る。
急がないと危ないかも知れない。
一刻も速くこのセリアンを冷風に宛てなければと柄にもなく彼は内心慌てていた。
彼の足と意識は自邸に向いていて、だからこそ気づかなかったのかも知れない。
担ぎ上げたセリアンの衣服の胸元から覗く紅のキャンディと、白いシャツの胸元に存在する自分のキャンディが輝いたことに―――。
急ぎながら、ちらりと視線を顔の横に向ける。
ふんわりとした尻尾が垂れていてもふもふと触り心地が良さそうだ。
触りたいなという欲求が湧いてくる。
しかし、本狐<ホンニン>の許可なく触ったらただの変態だろう。
喩え同性でも。
「……起きたら触っていいか訊いてみよう」
口許を笑ませてぽつりと呟いてふと足を止めた。
嫌な予感がする。
ぞくりとしたものが足元から這い上がってきて、視線を地面に向けるとひくりと口許が引き攣った。
ぬるぬるとしたそれは蛞蝓。
彼の天敵。
「いや、それ無理無理無理無理ィィィ!!」
断末魔のような叫声を上げて彼はかつてない速さで自邸に向かった。
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