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「わかんないから、言ってるの。」
菜乃花は自分の持ち物をすべてバッグに詰め終えて、バタン、と大きな音を立てて、蓋を閉じ、ファスナーも閉めた。
「ミツキのばか!大っきらい!」
バッグを重たそうに運びながら、声を荒げてそう吐き、彼女はこの部屋から出ていくと、とても強い力で扉を閉じた。
きっともう、帰って来てはくれないだろう。
同じフラれ方をしたのは、これでもう3回目だった。
「……勘弁してくれよ。」
俺の部屋は、一気に空っぽになった。
さっきまであった、たくさんの彼女の服も、邪魔な化粧品も、なくなってしまうと、こんなにも寂しくなる。
俺は空っぽな笑い声を発して、気分を換えようとしたが、それは余計に虚しくなるだけの行為にすぎなかった。
あの時、好きだよとか、愛してるよとか、言ってあげたら、菜乃花はどこにも行かなかったのだろうか。
嬉しい、とバッグをひっくり返して、俺に飛び付いたりしたのだろうか。
でもその言葉は、喉に引っかかってなかなか出て来ようとはしなかった。
俺の変なプライドとやらは、なかなか厄介なものらしい。
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