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1125。男はボタンを押した。
「はい」
エントランスの自動ドアの横にあるインターホンから、女の声がした。カメラで男の顔を確認すると「おかえり」と共に自動ドアは開いた。
エレベーターに乗り、1125の部屋を目指す。
ーどこだ?ー
マンションは大きかった。エレベーターはいくつもあったが、どれでも同じだと思っていた。けれども、違ったようだ。
何度かエレベーターを乗り直し、やっと目的の部屋についた。
もう一度、玄関の横にある呼び鈴を押す。すると、すぐにドアは開いた。
「おかえりなさいー」
子供が出迎えてくれた。
「・・・ただ・・・いま」
男はたどたどしく答えた。
「お父さん、早く、早く」
玄関のドアが閉じる。その横には木村と書かれた表札があった。玄関灯に照らされ、ここが男の家だと告げていた。けれども、男には実感などないまま、そのまま子供に連れられるままに入った。
「おかえり。なんで、LINEの返事くれないの?既読になったのに、返事ないなんてはじめてだよね」
リビングに入るなり、男は妻に言われた。
「・・・ん?」
男は返事をしたと思っていた。気になり、内ポケットからスマホを取り出し確認した。
「・・・ごめん。送信してなかった」
「しっかり者のあなたがそんなミスするなんて珍しいわね。疲れてるの?今日は帰り遅かったし、仕事、忙しいの?」
「・・・あ、うん」
やや早口の妻の言葉を聞き取るのに、男は必死だった。
「それじゃ、ご飯にしましょ。いつもの時間に帰ってくるとばかり思ってたから、まだ食べてないのよ。たっくん、お茶碗用意して」
「はーい」
ー帰ったらニュースを視るー
男は教科書をめくった。そして、教科書通りにニュースにチャンネルを合わせた。
テレビから声がしてくる。
「本日、逗子市の海岸に裸の男の死体があがりました・・・」
それを聞くなり、一瞬青ざめ、すぐにチャンネルを変えた。
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