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「佳奈」
もう二度と会えないはずのあなたの声が聞こえた。
振り返っても誰もいない。
きっと気のせい。私の心の中でしか聞こえない声。
「佳奈」
俺の姿はお前には見えない。それでも、近くから見守っていた。
何も悔いはない。
お前を残すこと、だだそれだけが辛かった。
前を見て生きてほしい。
あなたが死んで一月が過ぎた。
私は日課になりつつある遼一の墓参りに来ていた。
「どうして私を置いてくのよバカ...」
心の中で整理がついたはずなのに涙が止まらない。
「嘘つき.............グスッ」
涙はとめどもなく溢れてくる。
「ゴメンな」
そのとき、遼一に優しく抱きしめられたような錯覚がした。
「ゴメンな」
俺は佳奈をそっと抱きしめた。例えあいつが気づかないとしても、俺はこんなことしかできない。
そろそろここにいられるのも限界が近い。
「......遼一?」
静かに立ち去ろうとした俺を佳奈の声が止めた。
「......遼一?」
最初は錯覚だと思った。けれども、何度見ても錯覚じゃなかった。
「......見えるのか?」
「うん」
言いたいことはたくさんある。でも、言葉が頭に浮かんでこない。
「なあ、佳奈」
「何よ...」
「俺の分まで幸せになってくれよ」
「当たり前よ。世界一幸せな女になってやるんだから!!」
遼一の姿が徐々に透けてきている。きっともう会えないだろう。
「好きだ、バカ」
最後くらい思いっきり甘えてやる。遼一に思いっきり抱きつくとキスをした。
「好きだ、バカ」
だだ愛おしかった。抱きついてきた佳奈をぎゅっと抱きしめる。いつまでもこうしていたい。
しかし、限界が近い。
体がどんどん透けていく。
「そろそろお別れの時間だ」
「そろそろお別れの時間だ」
遼一の言った通り、彼の体は限界に近づいてた。
指先から光の粒子となって消えていく。
そんな遼一にありったけの思いを込めて告げる。
「私と出会ってくれて----」
俺の体が消えていく。
「また会おうぜ」
これが別れじゃない。いつか、また会える。
優しく微笑む佳奈にありったけの思いを込めて告げる。
「俺と出会ってくれて----」
「「ありがとう」」
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