昼と夜の吟遊詩人

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 お目当ての曲が終わると、無骨者達は歓声を上げる。その中に混じっている女性達は、曲ではなく吟遊詩人が目当てだ。無骨者達はそれに気づき、顔を曇らせる。いつもよりおめかしした女性達の、いつもよりも綺麗な笑顔は、余所者である吟遊詩人の物だ。  だが、一方で自分達も優男の歌と踊りを楽しみにしている。怪我をさせて歌が聴けなくなるのは惜しい。  無骨者達の葛藤を知ってか知らずか、吟遊詩人は遠方の舞踊だとカスタネットを鳴らし、床を踏み鳴らし、踊り始める。初めて見る踊りは刺激的で、カスタネットと床を踏み鳴らす音は情熱的だ。  無骨者達は吟遊詩人の踊りに引き込まれ、やがて女性達の黄色い声援に混じって指笛と手拍子を送った。  吟遊詩人は笑顔で声援に応え、酒場が閉まるまで歌い、踊り続けた。  閉店になるとやはり、吟遊詩人の姿はいつの間にか消えていた。今の今まで彼を囲んでいた女性達もいつ消えたのか気付かなかった。
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