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吟遊詩人の踊りを見たさに激しく動き回った無骨者達は、仕事が覚束なくなる程の疲労に見舞われる。あまりの疲労に吟遊詩人を恨む声が上がった。しかし、子供達を引き連れてヴァイオリンを奏でる姿を見て、誰もが空いた口が塞がらないという表情をする事になる。
あいつは化け物か? と囁きが生まれるが、変わらずの屈託の無い笑みと楽しい音楽に、悪いモノではないのだろう、と口を揃えた。
夕方になると、吟遊詩人は端材を分けて欲しいと工場へ現れる。
始めは渋ったが、何に使うのかと尋ねた所、近くにあった金属片を並べ、金槌を借りると簡単な曲を奏でてみせた。これには男達も驚嘆し、少量だけ分けてやった。
礼を言って去る吟遊詩人に、どんな音楽が聴けるのかと期待を込めて背中を見送る。
先日の踊りでやっかむ者のいなくなった街では、誰もが吟遊詩人の虜であり、依存しているとすら言えた。街の住人は音楽を心から楽しんでいた。
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