旅立つ吟遊詩人

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 一人が演奏し、一人が歌う。それまで弾き語りだったものが、それぞれに集中する事により、音楽はより一層、芸術性が増した。二人で歌えば、重なる和音が見事に調和されて心地良い響きになり、楽器を奏でれば音の厚みが心を揺さぶる。  今日は最後の夜だと双子は言うが、酒場からは笑顔が絶えなかった。みな、手を叩いて双子の演奏を心から楽しんだ。  朝になり酒場が閉まると、双子は馬に乗った。今までと違い、消えるのではなく、朝まで一緒に楽しんだ人達に見送られて、二人は旅立った。 「また来てね!」  若い女性が手を振ると、双子の片割れが手を振り返した。 「またいつか」  吟遊詩人のいなくなった街は、それでも音楽が絶えなかった。  子供達は吟遊詩人から教わった歌を歌い、端材で作った楽器を叩いた。女達も労働者達も、無意識に吟遊詩人に教わった歌を、手拍子を伴奏に歌った。  双子は街から去ったが、音楽を残していった。
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