第13球ーNinesー

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ギコギコ… 五月過ぎの夜風は、部活終わりにはクールダウンに丁度良い。 「いよいよ試合だなぁ…」 高宮 翔は古びたボロ自転車を力強く漕ぐ。 「四番、キャチャー高宮クン。」 「…んだよ、からかいに来たか?」 校門を出てすぐ、一人の女子が待っていた。翔は自転車から降りて彼女に歩幅を合わせる。 「唯、肘は大丈夫かよ?」 「…知ってたんだ。」 芹沢は自嘲して笑う。 「もう、ソフトはできなさそう。だからさ、翔には頑張って貰わないとさ。」 「もうできないって、ウソだろ?」 「本当、ケガしてる内に完全に靭帯が固まっちゃってさ、もう昔みたいなウィンドミルはムリみたい。」 切なげに芹沢は地に目を落とす。 「ね、」 「ん?」 芹沢の短い問い掛けに、翔は首だけを回す。 「翔はさ、野球ができなかった間どうだった?苦しかった?」 「……どうかな、まぁ野球したいってはずっと思ってたかな。」 星々が浮かぶ空を眺め、考える。 果たして、芹沢は虚しさを詰め込んだ瞳を前に放つ。 「私はね、綺麗さっぱり忘れられると思ってたんだ、野球。でも…ムリみたい。」 「…だろうな。」 唇を強く噛み締めた。 「野球ができないって事が、こんなにも辛いなんて、知らなかった…!」 悲痛な叫びは、翔の耳に重々しく入る。
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