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ギコギコ…
五月過ぎの夜風は、部活終わりにはクールダウンに丁度良い。
「いよいよ試合だなぁ…」
高宮 翔は古びたボロ自転車を力強く漕ぐ。
「四番、キャチャー高宮クン。」
「…んだよ、からかいに来たか?」
校門を出てすぐ、一人の女子が待っていた。翔は自転車から降りて彼女に歩幅を合わせる。
「唯、肘は大丈夫かよ?」
「…知ってたんだ。」
芹沢は自嘲して笑う。
「もう、ソフトはできなさそう。だからさ、翔には頑張って貰わないとさ。」
「もうできないって、ウソだろ?」
「本当、ケガしてる内に完全に靭帯が固まっちゃってさ、もう昔みたいなウィンドミルはムリみたい。」
切なげに芹沢は地に目を落とす。
「ね、」
「ん?」
芹沢の短い問い掛けに、翔は首だけを回す。
「翔はさ、野球ができなかった間どうだった?苦しかった?」
「……どうかな、まぁ野球したいってはずっと思ってたかな。」
星々が浮かぶ空を眺め、考える。
果たして、芹沢は虚しさを詰め込んだ瞳を前に放つ。
「私はね、綺麗さっぱり忘れられると思ってたんだ、野球。でも…ムリみたい。」
「…だろうな。」
唇を強く噛み締めた。
「野球ができないって事が、こんなにも辛いなんて、知らなかった…!」
悲痛な叫びは、翔の耳に重々しく入る。
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