第13球ーNinesー

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「なぁ唯、」 「…?」 翔は自転車を押すのはやめずに、ユックリと視線を芹沢に移す。 「もうお前は野球ができないかも知れないけどさ、俺がその悔しさ埋めてやるからさ…」 「やるから…?」 「それじゃあ足りねぇかもしんないけどさ、一つだけ俺がお前にしてやれる事がある。」 「一つだけ…?」 芹沢の潤んだ瞳に、翔は頷いて応える。 心に、自分に言い聞かせるように、言葉にする。 「俺がお前を、甲子園に連れて行ってやる。それが俺がお前に…唯にできるただ一つの事だ。」 「甲子園…」 壮大な話に芹沢も暫し呆気に取られる。 「アハハッ…!馬鹿じゃないの?できたてホヤホヤの弱小チームが甲子園なんて行けんの?」 「やってやる、俺の本気を舐めんな。」 芹沢の茶化しにも、動じずに堂々と翔は言い切った。 「俺はお前を絶対に甲子園に連れて行ってやる、約束だ。」 「………うん。」 翔の小指と、芹沢の白く細い小指が結ばれた。 「約束だからね。」 「俺が今まで約束破った事あるか?」 「……フフッ、今度の試合。観に行くね。」 「うぃ。」 芹沢の心は少しだけ、少しだけ和らいだ。
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