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「なぁ唯、」
「…?」
翔は自転車を押すのはやめずに、ユックリと視線を芹沢に移す。
「もうお前は野球ができないかも知れないけどさ、俺がその悔しさ埋めてやるからさ…」
「やるから…?」
「それじゃあ足りねぇかもしんないけどさ、一つだけ俺がお前にしてやれる事がある。」
「一つだけ…?」
芹沢の潤んだ瞳に、翔は頷いて応える。
心に、自分に言い聞かせるように、言葉にする。
「俺がお前を、甲子園に連れて行ってやる。それが俺がお前に…唯にできるただ一つの事だ。」
「甲子園…」
壮大な話に芹沢も暫し呆気に取られる。
「アハハッ…!馬鹿じゃないの?できたてホヤホヤの弱小チームが甲子園なんて行けんの?」
「やってやる、俺の本気を舐めんな。」
芹沢の茶化しにも、動じずに堂々と翔は言い切った。
「俺はお前を絶対に甲子園に連れて行ってやる、約束だ。」
「………うん。」
翔の小指と、芹沢の白く細い小指が結ばれた。
「約束だからね。」
「俺が今まで約束破った事あるか?」
「……フフッ、今度の試合。観に行くね。」
「うぃ。」
芹沢の心は少しだけ、少しだけ和らいだ。
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