序章

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牙が欲しかった。 汚れた世界へ向ける牙が。 ちっぽけな僕にはまだ何もできない。 一人しかいない僕はまだ価値が低い。 汚れに飲み込まれた僕はただの人間。 世界を変えたいとは思うかも知れない。 けれど。 それよりもっと、もっと強く。 僕は、この世界からいなくなりたいと強く願う。 別の世界へ……異世界へ行きたいと、強く、強く祈る。 でも、願っても祈っても、叶わない事は嫌になるほど理解している。 それでいてこの世界に未だ留まるのは窮屈で退屈で仕方がない。 仮に、僕が何らかの方法で「死」に堕ちたとしよう。 それでもきっと、生まれるのはまたこの世界だ。 それがわかっていて「死」を選ぶ気になんてなるものか。 だから僕は、「死」へと逃げる人の気持ちが全く理解出来ない。 そんな僕が、だ。 もし地震の震源地に居合わせて、もし瓦礫の下敷きになった挙げ句、もし近くの海からの津波に巻き込まれたら。 そんな堕ち方なら、別世界に行けるかもしれない。 ……でもきっと、そんな偶然で必然の出来事は起こらない。 あれほど噴火すると言われている富士山でさえ、未だ噴火していないのだから。 とある星の綺麗な夜に、僕は祖母の家へと家族と共に帰省した。 祖母の家は山の中にあり、星がとてもよく見える。 僕は夜、天体観測へと山の中へ歩いて行った。 小さい頃から入った山だ、迷うことは滅多に無い。 しかしその日に限って、何故か迷った。 理由はきっと分かれ道だ。 今までなかった分かれ道が、草木を掻き分けたように出来上がっていた。 好奇心旺盛な方の僕は気になった。 久々の山だ、不思議では無いかも知れないが、今までそんなことは無かった。 だから僕は、そちらの方へと進んでしまった。 出た所にはとても澄みきった川が流れていた。 水は蒼く、透明で。 満天の星空がよく映えた。 僕は近くの草の上へレジャーシートを敷き、寝そべる。 そして星空を見上げる。 2つの飛行機の光が見えた。 それは丁度僕の真上辺りの位置を目指し飛んでいる様だった。 そして数秒後。 爆音と共に、星空は煙りに包まれた。 僕の視界から既に飛行機は2つから2に満たない2となっていた。 ヒュウゥ、と何かが落下する音がした。 僕は目を凝らす。 すると、先程ぶつかった飛行機の瓦礫が、僕の真上に位置する空から落下してくる。
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