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―――そして頂上へ。
獣道のような山路を抜けると同時に、レオはゾンダのアクセルを踏み込んだ。
滑り出すリアタイヤ。
ハンドルを左へ一回転。
左周りで振り向く車体。
ハンドルを戻し、右へ一回転。
クラッチを切りギアをセカンドへ。
安定。
その鋭角コーナーを抜け、やがてレースは始まる。
前に見えるのは暗闇と、点在する街灯が照らすコースのたった一部分。
ダウンヒルは初めてだが、この道は何度か登ったことがある。
一つ前を走る相棒の車……いや、クソ女のムルシエラゴは相変わらず機嫌のよろしいご様子だ。
最初の緩い右コーナーでさえも無駄に角度をつけたドリフトをレオに見せ付ける。
グリップでそのテールを追うレオは堪らず舌打ち。
スタート時のドリフトは我ながら見事だとも思ったが、それ以上に見事なドリフトを見せ付けてくるヤツのテールランプからは、今にも「その程度で舞い上がるんですか?」という声が聞こえてきそうだ。
そう、今回の相手はクソ女。
相手チームの2台なんて知ったことではない。
クソ女に勝って、ミラノ最速の称号を取り戻す。
ハンドルを左に回し切り、一つ目の左ヘアピンを駆け抜ける。
どうしたクソ女。
コーナーからの立ち上がりが前回のレースよりも甘い。
ムルシエラゴはレオのゾンダよりもポールポジションを走るアウディーに照準を向けているらしい。
青のアウディ・R8。
そしてレオの後ろを走る、同じく青のポルシェ・918。
車のせいもあるが、ポルシェもなかなかに上手い。
コーナーのライン取りはゾンダよりも正確だし、なによりレオの十八番であるシフトワークで引き離せない。
邪魔だ。
邪魔邪魔邪魔。
俺はクソ女との勝負で忙しい。
無駄なプレッシャーを与えるな。
この緩い右コーナーの後にはほぼ直角の左コーナー、そしてその直後に二つ目のヘアピンが待っている。
とりあえずそこでポルシェを置き去りにしてやる。
まずは先頭のアウディのブレーキランプが目に入った。
続いてムルシエラゴのブレーキ。
レオもベストタイミングでブレーキを踏む。
後ろのポルシェも…
いない。
「はぁ!!??」
ゾンダの横に並ぶポルシェ。
あいつ、ブレーキを踏んでいない。
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