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《あっ、もしもし。もしもーし》
耳のヘッドセットから聞こえる無機質な声。
二つ前を走るヒューガ……クソ女だ。
相変わらず声音だけは美しいが、その間抜けな口調は最高に苛立つ。
「うっせー!! 聞こえてるっての!」
《あっ、すみません。えっと、ポルシェは一体何を?》
ポルシェはヒューガのムルシエラゴを煽り始めた。
クソ女なりにゾンダがポルシェにパスされたことを重く見ているのだろう。
「オーバースピードでコーナーに突っ込んだが普通に曲がりやがった。ブレーキ踏んだ瞬間に真横につかれたんだ!」
《あっ、知ってますよ。見てましたから。ポルシェが何をしたのかをお聞きしたいんですよね》
「分かんねぇよ! 分かってたらこんなに焦ってねぇ!!!!」
《そうでしたか、えっと、大変遺憾に思います。……どう思います? JPさん》
《誰がコードトップレベルドメインだ》
ヘッドセットの声が切り替わる。
ヒューガの声よりも少々可愛らしい声音だ。
JV、ワイルドウイングを束ねる鋼の女。
JVのその声には落ち着きがあり、不安が的中したかのような暗めのトーンに聞こえた。
細かいカーブを抜け左ヘアピン。
今度のポルシェはしっかりとブレーキを踏み込んだ。
先程のような妙なコーナリングは確認できない。
《ブレーキバランスである》
「ブレーキバランス? ほう、前後どっちに小細工かけてんだ?」
《違う、左右であるよ。
あのポルシェは左右でブレーキバランスに差を付けているのである。今回のレースでは極端に右を強く、極端に左を弱めているようであるな》
なるほど、ならばあのふざけたコーナリングも説明がつく。
戦車と同じだ。
左のタイヤの推進力が右のタイヤの推進力を上回れば、たとえステアリングを切らずとも右へ曲がる。
再び右ヘアピンへ。
……クソが。
右コーナーに入るたびに差を広げられる。
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