待ってくれない女

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《でも、おかしいですよ》 ヘアピンを抜けた瞬間にアクセルを踏み込まなければならない。 それが一瞬でも遅れればさらにポルシェに差をつけられる。 普段以上にシビアなシフトワークをやりのけてようやく後ろに食い付ける程度だ。 《右コーナー重視のセッティングなら、左コーナーでそれなりのハンデを負うはずじゃないですか?》 「ああ、確かに左コーナーでフラついてるようには見えねぇな。右コーナーでだけブーストしてる感じだ」 《ヴェルグ・カイザーズで独自の機構を採用しているようであるな。恐らくは手元でブレーキバランスを変則するか戻すかを選択できる、とか》 《対策はあるんですか?》 左ヘアピン。 差を詰められるとしたらここか。 いや、難しい。 このブレーキは左右均等に減速しているようにしか見えない。 さらにポルシェ・918という車種がムカつく。 向こうのコーナリングのテクニックはそこそこといったところだが、車の性能差のせいでレオと同等の速度で駆け抜けやがった。 JVの唱える対策とはなんだ。 何か対策は……。 《どうであるかな。まぁ、ミラノ最速の貴様らならなんとかなるであろう》 《プツッ》という音が聞こえた。 JVは通信を切ったらしい。 そしてその直後に《チッ》という舌打ちも聞こえた。 ヒューガはまだ通信を保っているらしい。 不愉快なのはヒューガもこちらも同じだ。 《どうします? レオさん。私はドリフトでブロックできますが、勝利条件は私とあなたのワンツーフィニッシュですよ》 「ああ、分かってる。ポルシェは俺がなんとかするさ。テメェはアウディーをブチ抜くことだけ考えろ」 《大丈夫なんですか?》 「人の心配してる場合かよ。クソ女、お前分かってんだろうな?」 《はい? あぁ、分かってますよ。この後の予定は空けてあります》 「ちげーわバカ。 今夜テメェをぶっ潰すのはこの俺だ。首洗って待ってろ」 《首を舐めるような性癖はご勘弁願いたいですね》   プツッ… クソ女が……。 まあいい。 先にあのポルシェを片付けなければ。 次は右ヘアピン。 問題の右ヘアピンだ。  
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