第1章

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 でき上がったそれは、光り輝く刀剣だった。青年の右手から生えるように精製された剣は、ジリジリと熱された鉄板のような音を発している。 「――――ッ!」直後、久郷は青年に向けてサブマシンガンを連射した。消音器(サプレッサー)の取りつけられた銃は、僅かな発砲音を打ち鳴らし、銃口から吐き出された無数の銃弾が青年に襲いかかる。  しかし、それが青年に届く事はなかった。  理由は明快。  不可視の速度で振るわれた青年の持つ剣が、刹那にして全ての銃弾を迎撃したからだ。  金属の割れる甲高い音が響き、鉄屑と化した銃弾が落下する。 「一寸の迷いもない銃撃……いいね! 『今日』は久々に楽しめそうだ!」子供のような、無邪気さの溢れる表情を覗かせた青年が、楽しそうに笑う。「んじゃ……今度はこっちの番だぜッ!」  瞬間、コンクリートを踏み砕く爆音が炸裂し、青年の姿が視界から消えた。 「ッ!?」あまりの唐突さに息を呑む。全身から冷や汗が噴き出すのを感じた。普通の人間なら、ここで一歩も動く事は叶わなかっただろう。しかし、久郷は違った。  長年の経験と直感が、反射的に身体を動かした。非常階段から飛び出る。直後、耳許で小さな擦過音。  ドバッ!! という滅茶苦茶な轟音と共に。  非常階段が青年の放った斬撃によって両断された。  巻き上げられた粉塵を、剣のひと振りでかき消し、青年はこちらを見据えた。 「良いね、良いね、良いね! 最高だよ! 俺相手にして一〇秒持った奴は、オッサンが初めてだ!」  歯をむき出しにして笑う青年の肩は震えていた。しかし、それは恐怖によるものではないという事は明らかだった。武者震いに近いものだろう。 「さあ! 楽しませてくれよッ!」光の剣を振りかざし、青年が一直線にこちらに迫る。  久郷は恐怖ですくむ身体に鞭を打ち、床を転がるようにして斬撃を躱(かわ)す。懐からスモークグレネードを取り出し、歯でピンを引き抜く。これがあの青年に対してどれだけ役に立つかは分からないが、ないよりマシだろう。  とっさに投げつけたグレネードが爆裂し、辺りに白い煙が撒き散らされる。
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