第1章

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 即座に立ち上がった久郷は、近くのドアを開け放ち、階段を駆け下りた。途中で脚がもつれ、転倒しかかるが、走るスピードは緩めない。踊り場の壁に『3』という数字を確認した久郷は、ドアのなくなった通用口を通り、人のいない廃ビルの薄汚れた廊下を走り抜け、近くの窓ガラスを銃のグリップで叩き割る。  ガラスのなくなったサッシに脚をかけ、三階分の高さから飛び降りる。外壁に張り巡らされていた、配管の一つを掴んで落下スピードを落とし、着地。再び駆け出す。 (人通りの多い場所へ移動するか? ……いや、ダメだ。今の状態は目立つ。俺の顔が一般人に割れるのは許容できない……何が何でも、あの男を始末するしかない……ッ!)  久郷は、近くの路地裏に駆け込み、違法投棄され、山積した粗大ゴミの中に身を潜めた。 (狙撃ライフルは破壊された。手持ちはサブマシンガン、拳銃とその予備弾倉が僅か……。そして、スモークグレネードと手榴弾が二つずつ……か)  携行品を確認しながら、周りには聞こえないほどの音で舌打ちする。  ――少ない。圧倒的に。  もはや、あの青年を下そうとするならば、暗殺という方法が失われた以上、白兵戦以外に道はない。しかし、青年に銃弾は通用しなかった。サブマシンガンの連射を、全て止められたのだ。あの、光り輝く剣に。  そもそも、『アレ』は一体何なのか? 明らかに物理法則を超えたあの『力』。映画や漫画――物語の中でしか見た事がないような、実在など誰も信じていない、くだらない妄想。それが今、自分の目の前に現れ、命を脅(おびや)かそうとしていた。 (人生……それなりの年月を生きていれば、多少は驚く事にも出会ってきたが……まさか、こんな事があろうとはな……)  小さく溜息をつきながら、考える。  あんな状況に鉢合わせたにも関わらず、頭の中は随分と冷静な事に自分でも内心軽く感嘆していた。長い間、こんな仕事をしてきたせいだろうか。今まで考えた事もなかったが、自分はそれなりに神経が図太かったらしい。 (さて……)  久郷は凹凸だらけの粗大ゴミ寄りかかり、サブマシンガンの弾数を確認する。  ――今まさに、自分の背後にいる青年をどうするか。  コツコツと、靴底が床を踏み鳴らす音が鼓膜を叩く。まるで気配を隠そうとしていない。よほど、自分の腕に自身があるという事か。
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