第1章

3/68

1人が本棚に入れています
本棚に追加
/68ページ
 家に着くと、すぐに熱を計ってみたのだが、驚く事に彼女の体温は軽く四〇度を越えていた。そんな状態で、たったのコート一枚で街を歩いていたのかと思うと、彼女には悪いが、もはや同情を通り越して呆れてしまう。そりゃあ倒れるだろうと。  とりあえず、お腹が空いているらしいとの事だったので、具合の悪い彼女でも食べれるようにと、おかゆを作ってあげたのだが……。 「…………」五十嵐はちらりと、台所の流し台を見る。そこには、四人?六人くらいの人間が鍋料理をする時に使うような、大きめの土鍋が鎮座していた。鍋の内側には米粒が付着している。  事の成り行きはこうだ。  五十嵐は、本人が空腹と言っているとはいえ、病気の人間がそんなにたくさんの量を食べれる訳がないだろうと、たかをくくっていた。だから作ったおかゆも少量。  そして、今にも死にそうな少女の前にそれを出すと、なんと一〇秒で完食。  おかわりと言うので、もう少し多めにしたのを作ってやった。  今度は一〇秒かからずたいらげた。  全然足りないと口を尖らせるので、少しムキになった五十嵐は、大きめの容器に変えて作ってやった。  そして、それを一瞬で胃袋へ流し込む少女。  ――後はこのやりとりの繰り返し。容器はどんどんと大きくなり、ついには、買ったはいいものの、使う機会もなく、段ボールに入れっ放しだった土鍋を引っ張り出して、学校の給食さながらに豪快な調理でおかゆをクッキング。  しかし、それすらいとも容易く少女は完食して、そのまま満足したように眠ってしまったのだ。  家にあったハズの二キロの米は、気づいた時には、もう一粒も残ってはいなかった。一体、この華奢な身体のどこに二キロの米を収めるスペースがあったのか。おかげで俺の晩飯は、残り物の肉じゃがオンリーになっちまった。  そして、今日。  朝一でコンビニにダッシュして、適当な食材を買って家に戻ってきたところ、悲鳴を上げながら少女が飛び起きた。目深に被られたフードの下の顔は大量の汗で濡れている。何か理由があるのか、彼女は、あのフードだけはどうしても脱ぎたがらなかった。眠っている時もずっと被ったままだった。 「おはよう」言うと、五十嵐は乾いたタオルを持って少女に歩み寄る。「すごい声だったけど、嫌な夢でも見ちまったか? まあ、病気の時ってよくあるよな。俺も内容は忘れたけど、見た事あるよ」
/68ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加