第1章

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「……ゆめ……?」小さく呟くと、少女は心底安心したように、大きく息を吐いた。だが、それも束の間。直後に彼女は、びっくりしたようにベッドから飛び退くと、警戒心剥き出しで五十嵐を睨みつけてきた。といっても、フードのせいで彼女の目は五十嵐からは見えないので、あくまでもそう見えたというだけだが。 「ちょ、おい……まだ動かない方が――」 「誰ッ!?」 「は?」突然の問いかけに五十嵐は目を丸くする。  少女の方はそんな五十嵐の様子など、おかまいなしに叫ぶようにしゃべり続ける。 「ここはどこ!? いつの間に私を連れてきたのッ!?」 「お、おい、急にどうしたんだよ? 少し落ち着けって……!」  どうにかして少女をたしなめようとするが、彼女の方は全く聞いていない。長く伸びた八重歯を剥き出しにして、五十嵐を威嚇している。 (もしかして、昨日の事覚えてないのか……?)  少女の様子から考えると、どうもそうらしい。それもきれいさっぱりに。冗談を言っているようには感じられない。自分はあそこまで高い熱を出した事がないので、いまいち分実感が掴めないが、昨日の出来事も覚えていられないほど、容態が酷かったという事だろう。 「ま、待ってくれ……! 俺は五十嵐。ほら、覚えてないか? 昨日、倒れてた君を連れてきたヤツだよ。あ、ちなみにここは俺の住んでるアパートで……」 「え?」と、五十嵐が早口でまくしたてた言葉の中に何か引っかかるものでもあったのか、少女は不意に眉をひそめた。「倒れてた……?」 「何か思い出したのか?」  訊いてみるが少女は答えず、こちらから目をそらして俯き、黙りこくってしまう。彼女は、しばらく考える素振りを見せてから、やがてハッとしたように顔を上げた。 「そう……だ、あの時……あの人を……して、そしたら……急に……頭が痛くなって……」  いまだ困惑したような、切れ切れの言葉からは、彼女の言わんとしている事は分かりかねるが、どうやら昨日の事とは関係ないらしい。五十嵐としては、少女が自分に向けている警戒心を少しでも解いてくれれば僥倖(ぎょうこう)なのだが……。  と、そんな思いを巡らしていると、いつの間にか少女の顔が眼前に迫ってきていた。
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