第1章

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「おわあッ!?」情けない声を上げ、とっさに後ろに引いてしまう。すると、後頭部を思い切り壁にぶつけた。脳にダイレクトに痛みが伝わる。五十嵐は頭を押さえながら、涙目で少女を見返した。「い、いきなりどうしたんだよ?」 「教えて!」少女はこちらに詰め寄る。  そして、その動作の中で彼女の被っていたフードが僅かに脱げる。  銀。  白髪というほど、真っ白ではない、ほどよく色素が抜け落ちたような、つやのある銀髪。しかし髪自体はそこまで手入れはされていないようで、肩の辺りまで伸びた髪の毛先は、切れ味の悪いナイフでぶち切ったかのように歪な形をしている。  歳は見た目、一二、三歳ほど。  長めの前髪の下から覗く顔立ちは、少しばかり土がついて汚れてはいるが、ぶっちゃけかなり可愛い。ぱっちりした二重まぶたが特徴的な目。大きな瞳は、髪と同じ銀色で、その濁りのない透明感のある色彩と相まって、こちらをまっすぐ見据える彼女の眼は、精巧なガラス細工を連想させた。  異様な色合いの髪と瞳を携えた彼女の姿は、日本人とも外国人とも判断がつかない、明確な人種すら感じさせないものだった。言うなれば、よくできた人形――そんな印象を与えてくる。  少女は、あれだけ脱ぎたがらなかったフードが脱げている事に、気づいているのかいないのか、そのままの状態でまくしたてる。 「昨日の夜、何があったのか私に教えて!」  まだ、警戒の色はうかがえたものの、とりあえずは五十嵐の話を聞く気にはなったらしい。自分としては助けた側として、少女の身元についていろいろと訊きたい事があったのだが、仕方ない。自分と少女はまだ、出会ってから半日ほどしか経っていない間柄であり、彼女にいたっては昨日の事を覚えていないので、初対面にも等しいだろう。 『目が覚めたら、知らない人の家にいた』。  ――そんな状況で、目の前にいた人間を完全に信用するなど、できるハズがない。 できるかは分からないが、少女と言葉を交わしながら、徐々に慣れていってもらう他ないだろう。  五十嵐は、「分かった分かった」と肩をすくめながら降参したように言う。「とりあえず、教えてはやる。……けど……」 「……っ、何……?」少女が眉をひそめる。
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