第1章

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「……お偉いサマ共が一体何を考えて、命令を飛ばしてるかは知らねえ。だがな、この数日間だけで四〇人近くが殺された。いいか? 『死んだ』んじゃねえ。『殺された』んだ。犯人であるあの銀髪をほっとけば、これから何百人が死ぬか分かったモンじゃねえんだ」  たった一日で大量殺人犯となった青年。銃弾すら効かない正体不明の『能力(ちから)』。あんなバケモノに太刀打ちできるハズがない――と思う自分は確かにいる。  だが。 「それがどうした」武田は言い捨てた。「敵が何だろうが関係ない。俺達が守ってきたこの街で、これ以上好き勝手なマネはさせねえ。……どんな手を使ってでも、あのガキを豚箱にぶち込んでやる」 「……俺は、反対です……」笠峰が声を落とす。 「何だと?」武田は、悲痛な表情を浮かべて俯く笠峰に対して、顔をしかめる。  やがて、顔を上げた彼は静かに告げる。「……殺されます」 「死ぬ事を怖がってるようなヤツに、こんな仕事は務まらねえ」 「そういう問題じゃないんです!」笠峰は声を荒げ、懇願するように言う。「俺みたいな新人でもこれだけは分かります! 今回の事件は警察官一人でどうにかなるものじゃない! 仮に、武田さんがあの銀髪を見つけ出したとしても勝てる訳がないんですよ! ……そんなの……ただの無駄死にじゃないですかッ……!」 「…………………………………………………………」 「…………………………………………………………」  しばしの間、二人の間に沈黙が生じる。まがりなりにも、上司にたてつくような発言をした笠峰は、僅かに恐怖を滲ませた表情をしながらも、真っ直ぐにこちらを見据えている。  やがて――。 「そうだな、確かにお前の言う通りだ」武田はあっさりと認めた。  事実、このまま警察を見限り、自分で調査を進めたところで、おそらく有力な情報は手には入らない。もし奇跡的に事件の核心――銀髪の青年に都どり着く事ができたとしても、一介の刑事でしかない武田にはどうする事もできないだろう。  しかし武田の顔に迷いはない。「それでもな、『ハイそうですか』って引きさがる訳にはいかねえんだ」と踵を返し、笠峰に背を向けながら歩き去っていく。「確率なんて知った事か。俺は俺の流儀を貫き通すだけだ」
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