第三章 『百万遍の願い』

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「最後まで読んだ時に、胸の内に例えようもなく、美しいものが残りますから」 穏やかな笑みで、胸に手を当てて言うホームズさん。 ――美しいものが残る。 「剥き出しの感情の果てに、傷ついて動けなくなって、ようやく顔を上げた時に見える光景は、とても美しいものなんだということを教えてくれるんですよ。 自分の父親ながら、本当に素晴らしい作家だと思っています」 屈託ない笑みを向けるホームズさんに、なんだかバツの悪い気分になった。 「……ホームズさんは、店長さんの胸の内を知っていたりしますか?」 きっと彼なら、自分の父親のこともお見通しなのかもしれない。 そう思いながら、静かに問うた。
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