第二章 『葵の頃に』

105/110
前へ
/606ページ
次へ
私はそんな三人の後ろ姿をなんとなく眺めながら、 「か、香織さん」 気が付くと、声を上げてしまっていた。 『なんだろう?』という様子で振り返った香織さんに、急にドキドキしてしまう。 って、なんで私は、彼女を呼び止めたんだろう? 「あ、あのね、ホテル・オークラにね、生クリームがたっぷり入ったアンパンがあるんだって。そ、それはテイクアウトはできないみたいで。 わ、私、一人では入れないし、もし良かったら、今度一緒に行こう?」 声を上ずらせながらそう告げた私に、香織さんは少し驚いたような顔を見せたあと、 「オークラの名物アンパンの噂だけは聞いたことある! 私も食べてみたかったの、今度絶対に行こうね」 と笑顔を見せてくれた。 「あ、ありがとう」 手を振りながら、嬉しさに鼓動が更に強くなっていた。
/606ページ

最初のコメントを投稿しよう!

37988人が本棚に入れています
本棚に追加