序 章 『ホームズと白隠禅師』

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「これはここだけの話に」 と口元に人差し指を立てて、イタズラに微笑む彼。 「だけど私、さっきの横山大観の富士絵に感動しちゃったんですよ? あれ、ニセモノだったんですよね?」 「ああ、あれは『工芸画』という複製でしてね、大観自身、『自分の作品をより多くの人に見てもらいたい』と工芸画の普及にとても協力していて、使っていた墨も渡していたくらいなんです。 本人も認めていたくらいの物ですから、本物とはいかなくても、なかなかの迫力を見せてくれるのも工芸画なんですよ。あれに感動できるのも、また良い目を持っていると思います」 「そ、そうなんですね。で、住んでるところが分かったのはどうしてですか?」 身を乗り出した私に、 「ああ、それは……君もその内、すぐ分かると思いますよ」 ホームズさんはそう言って楽しげにクスクスと笑った。
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