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「まだ、少し早かったな」
後ろから聞こえる声にヒナは頭を振る。
「もう、咲いてるよ」
ほんの少しだけ。
あと、数日もすれば辺り一面に咲き誇るであろう菜の花にヒナは足を踏み入れた。
振り返ってヒナが笑う。
「ヒロ君、ありがとう」
その眩しさにヒロキは目を細め彼女に微笑み返す。
「少し、歩くか」
そう言って差し出される手にヒナは自分のそれを重ねた。
少し冷たかった手がゆっくりと温かくなっていく。
「ねぇ、裏山のお社って今でもあるかな?」
「さぁ、どうかな」
「あの時の落書きって残ってると思う?」
「見に行きてぇの?」
「うんっ」
その後ろ姿は10年前と変わらない。
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