8652人が本棚に入れています
本棚に追加
/722ページ
「……ナ、ヒナ」
優しい声と共に少し冷たい空気がヒナの顔を撫でる。
うっすらと目を開ければ琥珀の瞳がヒナに笑いかける。
その綺麗な顔がヒナの視界から消え、飛び込んでくる眩い太陽の光りにヒナは目を細めた。
「降りろよ」
そう言われて、やっとここが車内なのだと気付きヒナは辺りを見渡した。
「あ……」
見える景色に小さく声をあげ、開けられたドアから足を踏み出す。
都会よりも冷たくて清々しい空気がヒナの全身を包み始める。
ヒナの大きな目に映るのは――。
「もみじ川……」
もう、雪は跡形もない。
水面は太陽の光を反射してキラキラと瞬く。
菜の花は膝丈まで伸び、たくさんの蕾を抱えていた。
最初のコメントを投稿しよう!