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* * *
志保を好きになったのは、志保と元彼の別れ話を偶然聞いてしまった、その日。
ただの同僚が、あの日から「オンナ」に変わった。
「矢野先輩!」
ふと、現実に引き戻す声に振り向けば、
可愛らしい後輩が、笑顔で駆け寄ってくるから、こちらも笑顔を向ける。
「お疲れ様」
「お疲れ様です。……和泉先輩、着替えてましたけど、一緒に帰らないんですか?」
「あぁ。……一応秘密だからね?付き合ってるの。ここで待ち合わせてる」
「あ、そっか。うちの会社、うるさいですもんね?そういうの」
先月末、俺に好きだと想いを告げてくれた子。
職場では男性陣のアイドル的存在。
「そう言えば、会社でも付き合う前と全然変わらないですもんね?凄いです」
「いや。凄いって言うか。……本当、変わりがないから」
「え??」
正直、紗奈ちゃんの告白は嬉しかったんだけど、
俺にとっては、志保を超える存在にはならなかった。
「アイツ。そういう性格だから」
「……そうなんですか?」
「そうなんです。俺、まだ好きとも言って貰えてないしねー」
ちっとも甘えてくんないし、天邪鬼と言うか意地っ張りなんだけど、
「……好きって言ってくれないって。普通、女の子の悩みですよね?」
「かも。気分は女子高生かな?」
「えー?矢野先輩が女子高生ですかぁ?」
「気分はね?」
そーゆーとこを可愛いと思うんだから、俺も相当だけど。
あの日から、ずっと俺にとって守りたい女だしなぁ。
「紗奈」
突然低く響いた声に、紗奈ちゃんの背筋が伸びた。
特に何とも思わず、そちらを見遣れば、
「……朝賀」
「よぉ」
キレイな顔したオトコ。
その朝賀クンとやらは、悠然とこっちを見てる。
何か、怖い位だな。ここまでキレーだと。
「矢野?紗奈ちゃん??」
「え?あ、和泉先輩」
「志保」
「どうしたの?」
一瞬、固まった空気が、志保の登場で動き出した。
「あ、じゃあ。矢野先輩、和泉先輩。お疲れ様でした!」
「え?あ、うん??」
「あぁ、じゃあ」
元気にそう言って、紗奈ちゃんは呼び止めたオトコの方へ駆けていく。
ふと、その朝賀クンと目が合った。
「……誰?あの美人さん」
「知らね」
言って、二人を見送る。
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