アメリカン・ナイトメア

　ちょっと待って、ドルしか入ってないって……何故！？

「馬鹿だなーお前、ベカスとか行ってるからだよ」
「あれ？ニューヨークじゃなかったか？」

　あー、旅行に行ったんだ……。それなら頷ける気もするけど、親御さんがもうちょっと注意してあげてれば――

「ごめん、実は……岩手のじいちゃん家に行ってたんだ……」

　すみません、岩手県はドルが流通してるんですか？そんな訳は無い。
　さっきから彼らは何なんだろう、持ちネタなんだろうか。私は笑いを堪えるのに必死だぞ。

「じゃあ何でドルとか持ってんだよ！」
「つーか土産はアメリカちっくだったじゃんか！」

　もう彼らも嘘に対して怒っていいのか、間抜けさに笑って良いのか微妙な半笑いだ。

「……通販でそれっぽいの買ったんだよ」

　無駄に手が込んでるよ！？何が彼をそこまでアメリカに駆り立てたんだろう……。

「……ドルは昨日、銀行で換金したんだよ……学校で自慢したかったんだ……それだけなんだ……」

　彼は目を伏せて拳を震わせながら、重々しい口調で言った後に、強く唇を噛み締めていた。
　分かるよ、分かる。なんかアメリカ行ってきたって響きに憧れちゃったんだね。
　そう納得した私に更なる追撃が繰り出されるとは思ってもみなかった。

「……こんな……事になるなんて……自動販売機でドルが使えないなんて……」

　使えねぇよ！当たり前だよ！ここは日本だよっ！だめだ、もう持たない……さっきから必死に口元を抑えてるんだけど……超不審者なんだけど……。

「俺達が悪かったよ、ごめん。誰だってドルしか持ってない時あるよな……」
「うん、ごめんな。俺、決めたよ……日本でドルが使えるようにするっ！」
「……有り難う、俺、お前らと友達で良かったよ！」

　うん、ちょっと待とうか。
　日本でドルしか持ってないとか中々聞かねぇよ！観光か！外国人観光客かっ！？
　つーか日本でドルが使えるようにしてどうすんだよ！混乱しか招かねぇよ！それに今飲み物買うには手遅れ過ぎるわっ！

「なぁ……ところでさ」

　総員笑撃備えろ、ドルの彼がまた何か言うぞっ！？