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「直哉にだって触られたくねーんだよ。俺だってずっと我慢してんのに」
なんか様子がおかしかった。
だから気になって来たんだ。
そしたら…
あいつの頭に手を置いて、コクるみたいなことしやがって…
ざけんな。
直哉にだって触れさせたくねぇ。
医者としてならともかく、あれは間違いなく違った。
優美を好きだっていう顔。
冗談じゃねーよ。
直哉が優美を好きだってのは知ってる。
それが終わったことではないのもわかってる。
だからこそ、触れられたくねぇ…。
「あっあれは急だったし…」
「急でもなんでも嫌なんだよ」
「…そんな大きな声ださなくても…」
優美が周りを気にしたそぶりを見せたから、俺は開けたままにしていたカーテンを、サッと閉めた。
「不安にさせたの俺なんだろうけど、不安なら不安って言えよ」
「……」
「……」
下を向いたまま何も言わない優美が、寂しそうに笑った。
「そう…だね」
余裕がないのは俺で…
誰かに取られるんじゃないかって…それが身近なやつなんじゃないかって…不安なのは…
俺。
それが言えない俺も俺だけど…
言えないくせに、言えってか。
あっちでは結婚までしてた女なのにな。
「病室であつーいラブシーンなんて見せないでねー」
は?
カーテンの向こうから、同じ部屋のおばちゃんの声がした。
「私もラブラブしたぁぁい」
うへっ。
別の患者の声まで聞こえてきた。
なんだその冷やかし。
「直樹戻って。みんなの餌食になるよ」
餌食ってなぁ…
優美が下を向いたまま、小さな声で言った。
なんで、顔あげないの?
「あとで俺の部屋来て」
優美の耳元で伝えて、俺はカーテンを思いっきりあけた。
超営業スマイルで。
おばちゃんたちに何も言わせないように。
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