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悠院市(ゆういんし)、といえば芸術の街、温泉地としても有名だ。
市のほぼ中心にあたる悠院町をはじめ、市を構成する
ほとんどの地域に温泉地を持つ。
ただ、その温泉も一時、湧出量が危ぶまれた。
災害予防と自然復興の観点から、周囲の山々に緑化運動が起こり、
次々と植樹が行われたためだ。
暫くして、悠院町全体で温泉が激減し、再度調査を行った結果、
植樹によって雨水が地下まで届かなくなり、温泉の湧出量が減るという
ことが判明、植樹が行われたところの大半は、山肌がみえる
ハゲ山に戻された。
そのハゲ山のおかげで、山々の中腹を抜ける高速道路のサービスエリアや、
インターチェンジを降りたところから悠院町は見渡すことができ、街と田畑、
そこに立ち上る湯煙は観光者にとって、これからの旅を期待させる
情景となっている。
また、県庁所在地より鉄道を利用しての来町も、違った視点からの
情景を楽しませてくれる。
急行で1時間にも満たない旅だが、目線での都市から住宅街、田園風景、
盆地ならではの左右から迫る山肌、そして山奥に突如現れる、
クラシカルながら異国情緒も香る駅舎は、まるで別世界に来たような錯覚さえ
思わせる。
この駅舎悠院駅正面から少し通りを進むと、道は放射状に別れ、
それぞれの道に沿うように店や宿が立ち並ぶ。そのうちの一方だけ、交差点入り口に大きな鳥居が立ち見るものを圧巻している。
これはこの先にある六社宮を指しており、その昔この鳥居から先は、
社領であったことの名残だ。参道として道の完成も一番古いためか、
今では他の道や通りより痛みが激しい。
駅を起点にする観光バスや、ホロ馬車、人力車もこの道を利用するが
車で悠院町を観光に来た者はあまり利用しない、町民のルートでもある。
ちょうど、盆地の中央部から駅の反対方向へ向かうこの道は、
途中から両側を田畑、その先にまばらな建物、緑と山肌と、
景色も観光用の通りとは、一味違ったものを見せてくれる。
この道を脇に抜け、高速道の下から伸びる国道へ向かうと、
道を挟んで民家と宿が山の斜面に建ち並ぶ一角へ出る。
この宿の一つ、流星(ながる)は、悠院の宿としては、少し異彩を放っていた。
既存の施設を買い取り、それを元にシックでありながら、
多国籍を思わせる雰囲気に仕上げ、手狭な部屋ながらもヒノキの風呂を、
各部屋に設けるという、贅沢さに加え、
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