一人

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手頃な値段で、人気を得ている。 また、いままでの常識を破り、男性の客室係りを採用していた。  浅井雅貴(あさいまさたか)は、その流星の中堅を担うスタッフだ。  両性に好印象を与えるやわらかな物腰と、程よく気が利く 性格もあって、流星のリピーターには彼を目当てに 来るものも少なくない。  ただ、欠点はそういった客と話し込んでしまうことだ。  いつものように夕方からチェックイン業務に入り、  数組のお客を部屋へ案内したあと、浅井は同僚に呼ばれた。 「浅井君、悪いけどフロント頼める?私はこれから厨房の補助に入るから」 浅井は快く頷き同僚から引き継ぎを受けた後、フロントへ入り、 書類を片付けた。  流星では、宿の規模もあり、スタッフの数が少ないため、一人あたりの 業務内容が多様になる。  同僚の話したフロント業務とは、チェックイン受付、客室案内 フロント前にある食事どころの準備を指す。場合によっては厨房の補助なども 含まれる。  もちろん電話対応も・・・。 フロントの電話が鳴り、浅井が対応する。 「はい・・・申し訳ございません、当館では送迎のサービスを 行っておりません・・・お手数ですがそのように・・・ お待ちしております」 電話を切ると、先程の同僚がフロントの裏にある厨房から顔を出す。 「どうしたの?」 「いえ、送迎の電話です・・」 相手は苦笑いをして 「ああ、うちは無理だもんね、この人数じゃ・・」 そういって厨房へ戻って行った。  浅井も食事どころの準備を始めた。    流星は、元々の施設と山の中腹に建っているということもあり、 少し特徴的な造りをしていた。  国道から脇へ坂を少し上り、門を入ってすぐに駐車場があり、 そこから、階段を上がって本館入口、ロビーというものはなく、 中に入ってすぐ左右に分かれる食事どころと、その中央に作りこまれた フロントがある。  
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