一時限目

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「うるせぇ! 正体の掴めないような奴に誰が協力するか。そもそも幽霊じゃ無いなら、お前、ルシファー・チャイルドか?」  考えられる妥当な線で探りを入れて見る。 テレパシー、念話と称される、意志疎通の能力を持つ ルシファー・チャイルド 【堕天使の子供】がいるともされているが、目の前で体育座りで浮かんでいる少女は微妙に違う気がした。 『とりあえず。僕の正体は、ヒ・ミ・ツかな?』 「帰れ幽霊女」  照れながらウインクする少女をばっさり切り捨てて、手であしらう。 『いけずだねー志朗は』  左前方で拗ねていた幽霊少女が、珍しく志朗の視界いっぱいに移動してきた。その場でくるくると回り出す。ブーイングしながらだが鬱陶しいことこの上ない。 「いい加減にしろコラ!」 「いい加減にするのは志朗の方だ」 「あっ、れ?」  怒鳴りつけたはずの幽霊少女の姿はいつのまにか無く、代わりに眉をつり上げた雫が仁王立ちしていた。心なしか口の端も引きつっている気がする。 「相変わらず独り言が多いい! 早く校庭に行くぞ!」  不機嫌そうに立ち去る雫の姿を見て、志朗は大きく肩を落とした。 「あの腐れ幽霊。覚えてろよ」  と、拳を握りしめながら言うと、廊下を一度振り向いてから走り出した。     校門前には様々な改造学生服を身に纏った、柄の悪い男が九人ばかり屯っていた。ある意味、九十年代の粗悪なファッションショーのようだが、学校中の観客の眼を引くようなものではない。観客の目的は高確率で行われるだろう常識外の喧嘩と、その場に現れるだろう人物の登場を見たいが故である。 「とりあえず、当学園は部外者は立入禁止なんで、とっとと帰ってくんないかな?」   男たちの前で只一人対峙してる、守ノ宮学園の学生服姿はつまらなさそうにそう言い放った。オレンジの髪を逆立て制服を着崩している姿は、どちらかと言うと目の前の連中と同じ部類に見える。  男たちの中で、取り分け大柄な男が前に出た。 「さっきから言ってるが、俺たちが用があるのは加賀峰志朗だけだ。テメーはさっさとパシッてくればいいんだよ」 「さっきから言ってるが、帰宅時間になってから学園の外で話しつけろやストーカー野郎」   睨み合う二人の横に、改造学生服の一人が歩み寄る。 「さっきからテメー、城ヶ崎さんに舐めた口聞いてんじゃねぇーよ」 「うるせーな。口が臭いから寄るなカス」
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