二時限目

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 他の三人は思い思いに明後日の方向を見つめている。出雲に至ってはわざとらしい口笛付きだ。去年の説明は相当時間が掛かったようだ。 「本来、学園に慣れ始めた今頃の時期に一年の勧誘を行うのが通例だ。中等部からのくり上がり組以外で、雫君のように入学初日に自分から入会するケースは希だと言っていい」 「そうなのか?」  小首を傾げる雫の横に、にこやかな笑顔で乙姫が寄ってくる。 「雫ちんはお兄ちゃん子だもんね。お兄ちゃんがいるから風紀委員に入ったんだよね?」 「なっつ!」  赤面して思わず後ずさる雫。が、直ぐにハッとなって踏みとどまる。 「何を言っている。私はルシファー・チャイルドとして、この学園の理念に賛同して従っているだけだ。不真面目な志朗を監督するのはついででしかない。勝手な憶測は止めてもらう」 「素直じゃないね雫ちんは」 「雫ちんも止めてもらおう」  ムッとする雫に、流石にからかいすぎたと感じた乙姫は、舌を出してウィンクして誤魔化す。 「しかし、無理矢理全員と言うのは些か勝手すぎるのではありませんか? 風紀委員会の考えに賛同しない者もいるだろうし、中にはクラブ活動や、やりたい事がある人間もいるはずだと思いますが? 強制的な束縛は了承しかねます」  気を取り直した雫が会長に向き直る。鈴音は微かに苦笑したようだった。雫の瞳はひたむき過ぎる気がする。 「基本的には会員に登録して貰うだけだ。後は有事の際に協力さえしてもらえればいい。常に仕事をするのは正規の委員だけだ。基本的には……な」  「基本的には……ですか?」 「基本的には、だ。何事にも例外はある。例えば強力すぎるルシファー・チャイルドには残念ながら強制的にでも正規の委員になって貰う。抑止力側に確実に回って貰うためだ」 「……裏を返せば、必ず他の風紀委員の眼に止まる範囲に居させるためですか? 確実に別の抑止力がいる」  雫の言葉に、鈴音は今度こそ隠さずに苦笑した。この新入生は少し深読みをしすぎるようだ。周りの面子も少なからず驚いているようである。 「君の意見は間違ってはいないよ。そう言う考えも含まれている。勧誘自体にいろいろと含みがあるが、それを考慮して事に及んで欲しい。理解してもらえたかな?」 「了解しました。そう言うことならば反論は有りません」  頷く雫を見てから、副会長は本題の続きを話し出す。
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