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吸っていた煙草を投げ捨てると、神父はきびすを返して歩き出した。
満面の笑顔を浮かべて。
少年は、何故かその笑みがひどく歪なものに感じられた。
◇
三年前。
少年は土砂降りの雨の中、目の前に横たわる少女を見て立ちつくしていた。
薄暗く雨にとけ込んだように見える校舎の校門前に、血だらけな人が倒れている。
道に広がる水たまりに妙に生々しい赤い色が広がっていく。
それは水に垂らした墨汁のように、ゆっくりとその範囲を広げていった。
「あのバカ!」
我に返った少年は、持っていた傘を投げ捨てて少女に駆け寄ると悲痛な声を上げた。
「何やってんだテメェは!」
少年に抱き抱えられた少女は、ゆっくりと閉じていた瞼を開ける。
「志朗……君?」
うっすらと開かれた眼は少年の顔を探すが、視界がぼやけて輪郭すら分からない。
「えへへ、血。流し過ぎちゃったみたい。なんか……眼が見えないや」
苦笑しながら、傍らの地面に手を伸ばす。手探りで何かを探しているのに少年は気がついた。一メートル程先に、三十センチ程の長方形の箱があった。細かい装飾の施された宝箱が。
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