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8. 子供
ヒトミと対面した日から、私は出来るだけ一人で家にいないようにしていた。
一人の時間は、私に孤独と恐怖を増幅させる。
何も知らないしげちゃんの携帯に電話を掛けた。
「もしもし、しげちゃん、今どこにいる?」
「あ、えっと新宿だよ。」
「私も今からそっちに行ってもいい?」
「あ、いや、あの、」
「え、何?行っちゃダメ?」
「いや、ダメじゃないけど、あの……今、卓也といるんだ。」
卓也は、しげちゃんの子供の名前だ。
「だから、来ない方が良いかもしれない。」
「……うん、分かった。今から行くね。」
「え?来るの?」
「うん、行く。どこにいる?」
私の中の血が、急に熱くなって騒ぎ立てた。
私は、今、とても傷つきたい気分だった。
しげちゃん達は、靖国通り沿いにあるファミレスにいた。
「ほら、卓也、ご挨拶しなさい。」
「こんにちは!」
純粋無垢な笑顔がこっちに向けられた。
「あ、こんにちは。」
私は少し気後れしながら、何とか顔を緩ませて挨拶した。
「ね、お父さん、チョコレートパフェ食べたい!」
卓也くんは確か、幼稚園年長位だったと記憶している。
しげちゃんの携帯の写真で見た時も同じ事を思ったが、卓也くんはしげちゃんの生き写しのようにそっくりだった。
きっとしげちゃんも幼い頃はこんな顔をしていたんだろうなぁ。
卓也くんは、しげちゃんとヒトミさんとの間で育んで出来た愛の結晶。
その愛の結晶が今、私の目の前で目を輝かせてチョコレートパフェを待っている。
この現実を私は直視出来なかった。
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