第1章

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7. 動揺 喫茶店を後にしてから、家に辿り着くまでの記憶がない。 私は今日、初めてしげちゃんの妻、ヒトミと会った。 確かに、妻は存在していた。 当たり前の事だ。 しかし、今まで写真や話しの中でしか彼女の存在を見出して来なかった。 それが今日、生身の人間として突如私の前に現れた。 私は、突然、現実を突き付けられたような気がした。 私はしげちゃんと一緒にいると、しげちゃんに家庭がある事をたまに忘れそうになる。 いや、むしろ私の頭の中で勝手に家庭を消去していたのかもしれない。 ヒトミとしげちゃんには、私には知る由もない2人だけの歴史がある。 夫婦の絆がある。 私は、今日、ヒトミを前に確実に大きな敗北感を感じていた。 私はその敗北感を隠す為に見栄を張り嘘を付いた。 私は、この途方もない嘘を、一体どう収束したら良いのか回らない頭で考えていた。
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