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「ごめん、ちょっとトイレ。」
私は駆け足でトイレに駆け込み、今日食べた物を全て吐いた。
私の目からは、止めどなく涙が溢れていた。
私には、到底及ばない。
しげちゃんとヒトミさんが築き上げて来た家庭という城は、私が簡単に壊す事が出来る程脆いものではない。
もし、しげちゃんと私が結婚すれば、ヒトミさんと卓也くんを不幸にしてしまう。
私は、他人を不幸にしてまで自分の幸せを手に入れたいのか。
確かに、私には、しげちゃんしかいない。
しげちゃんは私の運命の人だと信じて来た。
しげちゃんといる時だけが、私はありのままの自分でいられた。
そんな貴重な人物は、お父さんとしげちゃん位しか今まで出会った事がない。
でも、私にはしげちゃんしかいないように、卓也くんにとってしげちゃんは唯一無二の父親という存在である。
子供から父親を奪って、それで私は本当の幸せを手に入れる事が出来るのだろうか。
自責の念に駆られながら、しげちゃんと過ごす事になるのではないだろうか。
でも、彼と会えなくなる事を考えると私の胸は破裂しそうだ。
私は自分の心臓に両手をあて、荒くなった呼吸を少しずつ元に戻そうとした。
そして、ゆっくり目を閉じて彼の背中を思い出した。
彼の背中には、ビー玉くらいの大きさのコブがある。
右の肩甲骨あたりにポツンと一つ位置している。
そのコブと同じものが私の父親にもある。しかも、全く同じ場所に。
私は、初めて彼と抱き合った日、彼の背中にそれを見つけて、何だか妙に嬉しくなったのを覚えている。
私は、彼の中に恋人としてだけでなく、父親としての面影も求めていたのかもしれない。
そんな事を考えていたら、いつの間にか私の呼吸は少しずつ平常に戻っていた。
「ごめん。お待たせ。」
私が席に戻った時には、卓也くんはパフェを食べ終えようとしていた。
「大丈夫?」
「うん。私もパフェ食べようかな。卓也くんと同じやつ。」
「すっごいすっごい美味しいよ!」
卓也くんの瞳があまりにも眩しすぎて私は直視出来なかった。
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