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走ったら打つ。敵に位置を知られたら、とにかく走る。タツオは進駐官養成高校の訓練どおりに駆け出していた。
内心の焦(あせ)りは激しかった。ただひとつの武器である自動拳銃は効果がない。
「ジョージ」
草むらのなかに跳びこんで叫んだ。
「ジョージ、いるか? あの小型ヘリはどうやって落とせばいい」
「ローターを狙え。頭上のメインでも、テールのでもかまわない」
その声が耳元から優しく聞こえて、タツオは鳥肌が立った。いつの間にかこのクラスメートは自分の背中をとっている。必殺の間合いに入られたのに、自分は気がつきさえしなかった。これが本物の戦場で、ジョージが敵ならもう死体になっている。もっともジョージほど優秀な兵士は、エウロペでもアメリアでも氾(はん)でも数えるほどしかいないだろうが。
「驚かせるなよ」
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