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CRUDE PLAY―略してクリプレは、今や日本全国知らない人間がいないほど有名なバンドに成長した。
ライブを開けばいつも超満員。チケットは即ソールドアウト。黒スーツを華麗に着こなした瞬がマイクを握れば、たちまち女性客から黄色い声が上がる。
そして昔秋が立っていた場所には、別の人物―篠原心也が立っている。
楽曲『インセクティサイド』のメロディが流れると、会場内は再び大きな歓声と熱狂の渦に包まれた。
だけどやっぱり、そこに秋の姿はなかった。
「あ、クリプレだ!」
渋谷のスクランブル交差点を歩いていた小枝理子の視線は、街頭ビジョンに映るクリプレのライブ映像に釘付けになった。
理子はふんわりとしたマッシュルームヘアと、首にかけた大きなヘッドフォンが特徴的な女子高生だ。
「どーしよ、超泣きそう……」
理子はビジョンから流れるクリプレの曲を聴きながら、思わず涙ぐむ。
クリプレ3枚目のアルバム『インセクティサイド』はカウントダウン番組で、見事アルバムチャート1位を獲得。
作詞作曲を担当しているのは元クリプレメンバーのAKIだという。
理子はクリプレとAKIの作る曲の大ファンなのだ。
「理子、行くぞ!」
理子のクラスメイトで、大きなギターを背負った君嶋祐一(きみじまゆういち)が理子の名を呼んだ。
その後ろにいるのは山崎蒼太(やまざきそうた)。
二人とも理子の近所に住む、大事な幼なじみだ。
「うん!」
理子は目尻ににじむ涙を拭って、笑顔で祐一や蒼太のもとへと駆け寄った。
この時、平凡な女子高生である理子にとって、クリプレも、クリプレに曲を提供してるAKIも、雲の上のような存在だった。
手の届くはずがない人……だったのだ。
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