1 嘘の始まり

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CRUDE PLAY―略してクリプレは、今や日本全国知らない人間がいないほど有名なバンドに成長した。 ライブを開けばいつも超満員。チケットは即ソールドアウト。黒スーツを華麗に着こなした瞬がマイクを握れば、たちまち女性客から黄色い声が上がる。 そして昔秋が立っていた場所には、別の人物―篠原心也が立っている。 楽曲『インセクティサイド』のメロディが流れると、会場内は再び大きな歓声と熱狂の渦に包まれた。 だけどやっぱり、そこに秋の姿はなかった。 「あ、クリプレだ!」 渋谷のスクランブル交差点を歩いていた小枝理子の視線は、街頭ビジョンに映るクリプレのライブ映像に釘付けになった。 理子はふんわりとしたマッシュルームヘアと、首にかけた大きなヘッドフォンが特徴的な女子高生だ。 「どーしよ、超泣きそう……」 理子はビジョンから流れるクリプレの曲を聴きながら、思わず涙ぐむ。 クリプレ3枚目のアルバム『インセクティサイド』はカウントダウン番組で、見事アルバムチャート1位を獲得。 作詞作曲を担当しているのは元クリプレメンバーのAKIだという。 理子はクリプレとAKIの作る曲の大ファンなのだ。 「理子、行くぞ!」 理子のクラスメイトで、大きなギターを背負った君嶋祐一(きみじまゆういち)が理子の名を呼んだ。 その後ろにいるのは山崎蒼太(やまざきそうた)。 二人とも理子の近所に住む、大事な幼なじみだ。 「うん!」 理子は目尻ににじむ涙を拭って、笑顔で祐一や蒼太のもとへと駆け寄った。 この時、平凡な女子高生である理子にとって、クリプレも、クリプレに曲を提供してるAKIも、雲の上のような存在だった。 手の届くはずがない人……だったのだ。
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