1 嘘の始まり

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その頃、都会の高層ビルの屋上に、秋は1人で立っていた。 強く吹く風の中で東京の町並みを見下ろしていると、突然スマホに『上を見よ』というメッセージが入る。指示通り頭上を見れば、巨大な影が秋の視界を覆った。 「勘弁してよ………。激しくダサいよ」 秋が目にしたのは、ビルの屋上に降りてくる一機のヘリコプターだった。 ガチャンと大きくドアが開き、中からスーツを着こなした瞬、薫、哲平、心也が降りてくる。 「よ、迎えに来たぜ」 「ヘリでくんなよ」 秋は一番声をかけてきた瞬に仏頂面で答えた。 瞬や哲平、薫達は、嬉しそうに秋の周りに集まり、その肩を親しげに抱く。 パタパタと高速で回るヘリコプターの羽根は、大きな風を巻き起こしていた。 「リムジンのかよかった?」 「タクシーで充分」 「お祝いなんだからいいじゃん」 「そうそう。それに秋もヘリが大好きなくせに」 「僕が好きなのはラジコンヘリですから」 「"僕が好きなのはラジコンヘリですから"」 「瞬のモノマネ、超似てるー」 「…帰る」 ふてくされて引き返そうとする秋を、瞬達は笑いながら引き止めた。彼らの間には幼なじみという強い絆がある。 だけど、秋達の様子を褪めた目で見ている人間がいた。 秋の代わりに途中からクリプレメンバーとなった心也だ。 「…じゃ、僕はここで」 「心也?」 「だってそれ、四人乗りなんで。後は幼なじみで楽しんでください。僕は先にパーティー会場に行ってますよ」 「……」 心也は1人みんなの輪から外れて、屋上を立ち去っていった。その背中を見送った後、秋はなんだか心也に対して申し訳ない気持ちになって、思わず仲間達をきつくにらんでしまう。 「おい、瞬」 「まーまー、秋が怒るのはもってもですけど。こっちも気遣ってわざとやってるんで。心也は心也でいづらいだろうし」 「……」 「いいから乗れよ、秋。 一緒に祝おうぜ、アルバムV3達成」 瞬は口の端を上げて笑みを浮かべると、秋を強引にヘリコプターに乗せた。 「カンパーイ」 ヘリコプターから東京の夜景を見下ろしながら、四人は乾杯した。 まるで一瞬だけ楽しかった高校時代に戻ったかのようで、秋の頬もついつい緩みそうになる。 けれど次の瞬間には我に返って、結局またふてくされた表情に戻ってしまうのだ。 ――どうして僕はこんなにいつも不機嫌なんだろう……。 その理由、実は秋自身にもよくわからなかった。
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