11人が本棚に入れています
本棚に追加
その頃、都会の高層ビルの屋上に、秋は1人で立っていた。
強く吹く風の中で東京の町並みを見下ろしていると、突然スマホに『上を見よ』というメッセージが入る。指示通り頭上を見れば、巨大な影が秋の視界を覆った。
「勘弁してよ………。激しくダサいよ」
秋が目にしたのは、ビルの屋上に降りてくる一機のヘリコプターだった。
ガチャンと大きくドアが開き、中からスーツを着こなした瞬、薫、哲平、心也が降りてくる。
「よ、迎えに来たぜ」
「ヘリでくんなよ」
秋は一番声をかけてきた瞬に仏頂面で答えた。
瞬や哲平、薫達は、嬉しそうに秋の周りに集まり、その肩を親しげに抱く。
パタパタと高速で回るヘリコプターの羽根は、大きな風を巻き起こしていた。
「リムジンのかよかった?」
「タクシーで充分」
「お祝いなんだからいいじゃん」
「そうそう。それに秋もヘリが大好きなくせに」
「僕が好きなのはラジコンヘリですから」
「"僕が好きなのはラジコンヘリですから"」
「瞬のモノマネ、超似てるー」
「…帰る」
ふてくされて引き返そうとする秋を、瞬達は笑いながら引き止めた。彼らの間には幼なじみという強い絆がある。
だけど、秋達の様子を褪めた目で見ている人間がいた。
秋の代わりに途中からクリプレメンバーとなった心也だ。
「…じゃ、僕はここで」
「心也?」
「だってそれ、四人乗りなんで。後は幼なじみで楽しんでください。僕は先にパーティー会場に行ってますよ」
「……」
心也は1人みんなの輪から外れて、屋上を立ち去っていった。その背中を見送った後、秋はなんだか心也に対して申し訳ない気持ちになって、思わず仲間達をきつくにらんでしまう。
「おい、瞬」
「まーまー、秋が怒るのはもってもですけど。こっちも気遣ってわざとやってるんで。心也は心也でいづらいだろうし」
「……」
「いいから乗れよ、秋。
一緒に祝おうぜ、アルバムV3達成」
瞬は口の端を上げて笑みを浮かべると、秋を強引にヘリコプターに乗せた。
「カンパーイ」
ヘリコプターから東京の夜景を見下ろしながら、四人は乾杯した。
まるで一瞬だけ楽しかった高校時代に戻ったかのようで、秋の頬もついつい緩みそうになる。
けれど次の瞬間には我に返って、結局またふてくされた表情に戻ってしまうのだ。
――どうして僕はこんなにいつも不機嫌なんだろう……。
その理由、実は秋自身にもよくわからなかった。
最初のコメントを投稿しよう!