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それからヘリコプターで東京上空を一周してから、秋達はお祝いパーティーが開かれるホテルへと向かった。
……と同時に、ホテル前に一台のバンが乗りつけられ、その中からタキシードを軽く着崩した高樹総一郎プロデューサーが現れる。
高樹はかつてアマチュアバンドだったクリプレをメジャーデビューさせた、敏腕音楽プロデューサーだ。
「よ。スタッフみんな、早くお前達を祝いたがってるぞ。秋、お前のこともな」
「……」
クリプレがアルバムV3を達成したのかよほど嬉しいのか、高樹は余裕たっぷりに話しかけてくる。
しかし秋の態度はひどく冷めていた。
「……瞬、ありがと。今日は楽しかったよ」
「パーティー、行かねーのか?」
「ああ」
秋はそのまま、高樹を無視して前を通り過ぎようとする。
高樹は高樹で秋の行動などとっくに予想済みだったのか、
「世界平和、書けたか?」
「………!」
と、わざと挑発的な笑みを浮かべた。秋はその質問に答えることなく、1人ホテルを立ち去っていく。
「……で、うちの天才君は、今度は何で悩んでんの?」
「アイツはほら、そもそもこういう売れ方したくなかった奴だから……」
秋の背中を見送りながら、哲平の質問に答える瞬。
もちろんプロデューサーである高樹にしてみれば、秋が抱える悩みなど甘っちょろいものでしかない。
「音楽なんて、売れなきゃ意味がねーんだよ……」
「秋はヤなんだよ。消費されてくことが……」
それでもやはり瞬は、秋に対し同情的だった。
今の世の中は、いつでも、どこでも、簡単に音楽が手に入る世界だから。
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