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「石川、後どのくらいで付く?」
砂漠にひかれた一直線の道。
そこを疾走する装甲車の中で、助手席に座る景山の声が発された。
「えーっと後1時間で多国籍軍の勢力下、目的地のトリポリまで2時間ってところですね」
そう答えたのはハンドルを握る石川だ。
筋骨隆々とまではいかないものの、軍人の様な体格をした石川。
無線機のすぐ上に取り付けられたGPSで現在地を把握していた。
彼らは今、米軍に依頼された物資の運送を行っていた。
前方を走る装甲車、後方を走るトレーラートラック。
その光景は軍の物資輸送と何ら変わりは無い。
しかし、彼らは社員章を付けたれっきとした社員であった。
あくまで、運送業務についている。
それだけの事だ。
「しっかし、アメ軍さんもずいぶんと気前のいいことしてくれますね。戦闘車両(AFV)4両にUAV支援。弾薬運ぶにしてはずいぶんと厳重ですよ」
「確かになぁ……本来俺たち民間軍事会社(PMC)に支給される車両は良くて2000年代に投入されたハンヴィー2両とストライカー1両だろ。それなのにここまでふんだんに支給されるって結構俺たち信頼されているのかもな」
景山は歯を見せながら笑うと、コンコンとドアガラスを叩いた。
防爆ガラス特有の音が鳴る。
どうやら久しぶりに乗る装甲戦闘車にご機嫌の様だ。
外は陽炎ゆらめく灼熱の大地。
だが、2重の空調はそのことを忘れさせるほど効力を発揮し、快適な空間を作り上げていた。
それはこの車両に限ったものではない。
前を走る装甲車も、後ろを走るトレーラートラックも、いずれも対中東戦を考慮して作られた米軍の最新型だ。
「いやぁ……そんな事言ってもホワイトウォーター社の連中は自前でストライカー大隊を作ったらしいですよ。俺たちは本社の小遣い稼ぎで行っている軍事部門、向こうはガチでやっている民間軍事会社だから比べる事は出来ませんけど」
ハンドルをさすりながら苦笑する。
恐らく、米軍がこれだけの装備を貸してくれたのは未だ発展途上にあるこの会社を憂いでの事だろう……そう思った時だった。
突然、重力が無くなった。
ハンマーで殴られたかの様な激しい衝撃が装甲車をおそい、シートベルトが全身を強くしめつける。
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