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「先生」
女子生徒の呼ぶ声に僕は振り向いた。
「先生」
目が合ってからもう一度僕を呼んだ彼女は肩まで伸びた黒い髪の毛を耳にかけながら、走ってきたのか、ふぅ、と息を一つついている。
「どうしましたか?」
僕はかけていた眼鏡を外し、ネックレスのように胸元に下ろす。
眼鏡チェーンをつけているためだ。
教室の前の長い廊下は僕と彼女だけだった。
放課後のこの時間は夕暮れの朱色と黒い影が僕達を見ている。
彼女は僕から一度も目を離す事はなかった。
黒い前髪の下の、黒い瞳が僕をじっと捉えていて僕は、何だろう、とやや首を傾げて聞いた。
「……何か言いにくい事があるのなら女の先生を呼んできましょうか?」
彼女は軽く首を横に振るだけで、やはり僕を見つめたままだ。
こう真っ直ぐと見つめられると照れるものが生まれてくる。
再び何だろう、と思った時、彼女の桃色の唇が開いた。
「先生」
また僕を呼んだ。
「うん?」
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