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「……あ、あんた、一体何者なんだよ……」
天井が高い、広々とした廃工場内に鉄巻鎖(てつまきくさり)の声が虚しく響く。
鎖の目の前に背を向けて立つ少女。もう先程の黄金の輝きはどこにもない。
その向こうには十人もの黒ずくめの男たちがずぶ濡れになって地面に倒れ付している。
鎖の言葉に少女が振り向く。綺麗な黒髪がふわっとなびき、隠れている右目が一瞬だけ姿を現した。
「あたしが何者か、って……」
抑揚がなく感情が乗っていないか細い声が鎖の聴覚をくすぐる。
廃工場の高い位置に取り付けられた窓から鮮やかな夕陽が射し込んでくる。少女の黒髪がキラキラと反射し、その下にある病的までに白い肌を橙色に上塗る。
鎖には、少女がまるで表情を動かさないものだから、なにか芸術家が造った一級品の彫刻のような、不思議で妖艶な魅力を彼女に感じていた。
「あたしは……」
少女の薄い色素の抜けた唇が微動した直後、突如銃声が廃工場に鳴り響く。
倒れ付してした黒ずくめの一人が力を振り絞り銃弾を少女の背中めがけて放ったのだ。
だが。
銃弾は少女に届かない。
銃声が鳴り響くと同時に右腕を突き出すようにくるっとその場で一回転。
一瞬、制服のプリッツスカートの下に見える、華奢で白く長い両脚の太ももの裏が見え、再び黒髪がふわっとなびき、少女の無表情な顔が鎖の前に現れる。
突き出した右手は握られ、少女は鎖に見せるように拳を開く。
すると、一発の銃弾が手のひらに乗っていた。
鎖は驚き、手のひらから少女へと目線を上げる。
「……あたしは、化物、だよ」
その日、初めて少女は鎖に笑みを見せた──
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