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「どうして鞠音は自分に痛いことするんだ?」
夫婦喧嘩から逃れた部屋の中で妹に問い掛けた。
俺は9歳。
鞠音は3歳だった。
「……。」
鞠音は感情が乏しい子供だった。
泣きも笑もしなかったし、自分の欲求を示す事はなかった。
そのせいか大人びて見えて、相変わらず黙っておとなしくしてれば可愛くて綺麗だった。
「解んないのか?」
こくんと、小さくうなずく鞠音。
俺に対してはかろうじて反応を見せる。
他の家族には返事もしない。
「そっか。」
ため息をつく。
しばらく無言だった。
夫婦喧嘩はやまない。
俺は被っていた毛布のなかで鞠音をだっこした。
「かあさんやとうさんに心配かけちゃダメだぞ?」
俺の言葉に、鞠音は指を動かして俺の手のひらに文字を書く。
『ごめんなさい』
だった。
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