はずれうた

3/8
前へ
/29ページ
次へ
「どうして鞠音は自分に痛いことするんだ?」 夫婦喧嘩から逃れた部屋の中で妹に問い掛けた。 俺は9歳。 鞠音は3歳だった。 「……。」 鞠音は感情が乏しい子供だった。 泣きも笑もしなかったし、自分の欲求を示す事はなかった。 そのせいか大人びて見えて、相変わらず黙っておとなしくしてれば可愛くて綺麗だった。 「解んないのか?」 こくんと、小さくうなずく鞠音。 俺に対してはかろうじて反応を見せる。 他の家族には返事もしない。 「そっか。」 ため息をつく。 しばらく無言だった。 夫婦喧嘩はやまない。 俺は被っていた毛布のなかで鞠音をだっこした。 「かあさんやとうさんに心配かけちゃダメだぞ?」 俺の言葉に、鞠音は指を動かして俺の手のひらに文字を書く。 『ごめんなさい』 だった。
/29ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加