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鞠音は幼稚園に通うことになった。
もはやハウスダスト云々の話ではないだろうと、両親は結論づけた。
家の中にいることがストレスなのかもしれない。
逃げ道を探すように、入園させた。
「良い子にしてるのよ?」
母親はギュッと白くなるほど鞠音の手を握っていた。
その日の内に、幼稚園から電話があった。
「犬が迷い混んで、子供さんが噛まれてケガしたんですって。」
「今時野良犬なんて珍しいな。」
「それが、飼い犬みたいなのよ。
怖いわ。群蓮も学校行くとき気を付けてね?」
「うん、わかった。」
迎えにいった鞠音を迎えにいった母親が夕飯時に話した。
鞠音の事で呼ばれるんじゃないかと心配していたので、鞠音の事で呼ばれなかった母親は機嫌が良かった。
(…あれ?)
「鞠音、頬っぺどうしたんだ?」
寝る前に、俺は鞠音の頬に出来た小さな痣に気が付いた。
髪に隠れていてわからなかったが、鞠音は肌が白いので、赤い痣は目立った。
「……。」
鞠音は俯いて言いたがらない。
それでピンと来た。
「誰かにやられたのか?」
暫くして、こくん、と鞠音は頷いた。
「!どうして…!お母さんたち知らないのか?」
「………。」
鞠音はじっと黙っていたが、やがて布団の上に指で字を書き始めた。
『きょう おばけ とか ばけものっていわれた
それで つきとばされて
はしらにぶつかって』
鞠音の髪は白く、目は金色だ。
しかもその目は真っ白な睫毛に幾重にも縁取られている。
『なんでそんなことされるのか
わからなくて
ひどいって おもって
そしたら あたまとむねがぎゅーってなって
しんじゃえって
おもった』
「……。」
鞠音が受けた事に怒りを覚えつつ、こんな鞠音は始めてみたと思った。
こんな風に表現することを躊躇うことも、こんな風に感情を表現する事も今までなかった。
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