10人が本棚に入れています
本棚に追加
二.
楠木小十郎君は文久三年の六月頃、新撰組に入隊した隊士でした。
温和な物腰と丁寧な顔の作りとで、直ぐに隊でも話題に上りました。
剣の腕も大した物だったらしいと聞いています。
歳の頃は十六、七と言ったところでした。
正直な話し、私は入隊した頃の楠木君の事をよく知りません。
美童らしいと言うのは小耳に挟んでいましたが、それ以上の事は気に留めていませんでした。
実際、何かの折に彼の姿をちらりと目にした時も、確かに美童だなと思っただけでした。
「何だか名工が一晩で彫り上げたような顔ですねぇ」と言って、周りの失笑を買ったのを憶えています。
「総司は時々変な物言いをする」と、原田さんに笑われました。
私は褒めたつもりだったんですけどね。
そんな調子でしたから、私は楠木君の事を殆ど知りませんでした。
最初のコメントを投稿しよう!