二.

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二.

楠木小十郎君は文久三年の六月頃、新撰組に入隊した隊士でした。 温和な物腰と丁寧な顔の作りとで、直ぐに隊でも話題に上りました。 剣の腕も大した物だったらしいと聞いています。 歳の頃は十六、七と言ったところでした。 正直な話し、私は入隊した頃の楠木君の事をよく知りません。 美童らしいと言うのは小耳に挟んでいましたが、それ以上の事は気に留めていませんでした。 実際、何かの折に彼の姿をちらりと目にした時も、確かに美童だなと思っただけでした。 「何だか名工が一晩で彫り上げたような顔ですねぇ」と言って、周りの失笑を買ったのを憶えています。 「総司は時々変な物言いをする」と、原田さんに笑われました。 私は褒めたつもりだったんですけどね。 そんな調子でしたから、私は楠木君の事を殆ど知りませんでした。
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