浮く花びら

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あたしは全速力で走った。 ヒールなんて気にもとめず。 さよなら、マサト。 今のあたしなら痛くも痒くもないよ。 ある程度の距離を走ってきて速度を緩めると、鞄の中がブーブーと震えた。 それに反応してゆっくり手を伸ばし、ディスプレイを見る。 瞬間、涙がこみ上げてきた。 何故自分が泣いているのか分からない。 でもこの涙は、マサトに対しての物じゃないのは、確か。 “のん” ディスプレイのその人は、あたしが電話に出るのを待ってくれている。 その思いから、口にグッと力を入れ、通話ボタンを押した。 「……はい」 泣いていたのがバレないように、あくまでもいつもの口調になるよう努めた。 でも 『……なんか、あった?』 お見通しだった。 まだ返事しかしていないのに。 のんの声を聞いたら、引っ込んだ涙が再度溢れてきて。 せっかく整えた平常心も、もろく簡単に崩されてしまった。 抑えようとしても意思だけじゃ不可能で、返事がをする事ができない。 『ねぇ、小梅。今どこ?』 ふと、届いた、優しい声に あたしの全身が、この人を求めてしまう。 「……もうすぐ、家」 『待ってて』 それだけ残すと、電話はブツリと切れた。 来て……くれるの、かな。 前飲んだ帰りにタクシーで一緒に乗ってきたから場所を、のんは知ってる。 のんが来る、その事実があたし胸をはやらせた。
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