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「こちらの商品はー」
藤原さんは相変わらず“藤原さん”で。
カタログを片手に、あたしに説明をしている。
うん、いつもの流れのだし、至って変わらないんだけど。
……変わったのは、あたしの気持ち。
だから目の前の彼が、“藤原さん”なのが寂しい。
って、あたしは。
今は仕事中なんだから、仕方ないでしょ。
「櫻木さん?」
「あ、はい」
自分の中で複雑な気持ちが交錯していると、不意に藤原さんに声をかけられた。
「この商品の売上はどうでしょうか」
「すみません、えっとですね」
藤原さんの問いにあたしは急いで書類に目を落とし、確認する。
ああ、恥ずかしい……
藤原さんはしっかり仕事場モードなのに、あたしは何を考えてるんだろう。
今は仕事中、しっかりしなきゃ。
自分に渇を入れ、そこからは“藤原さん”と向き合い仕事に集中した。
「お疲れ様でした」
「お疲れ様です」
契約が終わり分厚い書類を机の上でトントンと整えると、藤原さんがこちらを見ていて不意にぶつかる、視線。
「小梅」
ニカッと歯を浮かせ、屈託のない笑顔をあたしに向けるのは紛れもなく、“のん”だ。
途端に心拍を上げる、あたし。
……今、すごく嬉しい。
お預けをされていた犬が、ヨシをされた、そんな感覚。
じわっと広がる、胸のぬくもり。
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