流れる花びら

4/15
801人が本棚に入れています
本棚に追加
/100ページ
「こちらの商品はー」 藤原さんは相変わらず“藤原さん”で。 カタログを片手に、あたしに説明をしている。 うん、いつもの流れのだし、至って変わらないんだけど。 ……変わったのは、あたしの気持ち。 だから目の前の彼が、“藤原さん”なのが寂しい。 って、あたしは。 今は仕事中なんだから、仕方ないでしょ。 「櫻木さん?」 「あ、はい」 自分の中で複雑な気持ちが交錯していると、不意に藤原さんに声をかけられた。 「この商品の売上はどうでしょうか」 「すみません、えっとですね」 藤原さんの問いにあたしは急いで書類に目を落とし、確認する。 ああ、恥ずかしい…… 藤原さんはしっかり仕事場モードなのに、あたしは何を考えてるんだろう。 今は仕事中、しっかりしなきゃ。 自分に渇を入れ、そこからは“藤原さん”と向き合い仕事に集中した。 「お疲れ様でした」 「お疲れ様です」 契約が終わり分厚い書類を机の上でトントンと整えると、藤原さんがこちらを見ていて不意にぶつかる、視線。 「小梅」 ニカッと歯を浮かせ、屈託のない笑顔をあたしに向けるのは紛れもなく、“のん”だ。 途端に心拍を上げる、あたし。 ……今、すごく嬉しい。 お預けをされていた犬が、ヨシをされた、そんな感覚。 じわっと広がる、胸のぬくもり。
/100ページ

最初のコメントを投稿しよう!