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「小梅元気ないね、どうかした?」
さっきまでの“藤原さん”は跡形もなく消え、すっかり“のん”になった。
ONOFFスイッチ激し過ぎない?
……でもそれは、のんの誠実さが現れてるんだよね。
「そんな事ないよ。お昼あんまり食べてないから」
「ちゃんと食べなきゃ。あ、もしかして急遽俺が来たせい?」
「あ、違うよ」
のんが心配そうな顔で覗き込んでくるから、あたしは慌てて両手を横に激しく振った。
「嘘、でしょ。小梅は優しいから」
すごく優しい笑みを浮かべるのんに、あたしは居たたまれなくなって、苦笑いを返すことしか出来ない。
書類を用意してなかった、自分が悪いだけなのに。
優しいのはのんの方だよ。
ブーブー
こそばゆい空気の中、それに割ってはいるように鳴り響く、バイブ音。
「あ、ごめん、俺だ」
「どうぞ」
のんはディスプレイを確認すると、少し眉を寄せた。
「……?出ないの?」
出る様子のないのんに、深く考えることなくそう尋ねると。
「……私用だから、後でかけ直すよ」
なんとなく低くなった声であたしにそう返し、スマホを胸ポケットに閉まった。
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